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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)2452号 判決 1953年5月01日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人広重慶三郎の上告趣意第一点及び同渡部繁太郎の上告趣意について。

贈賄罪は公務員に対してその職務に関し賄賂を供与するによって成立し、公務員が他の職務に転じた後、前の職務に関して賄賂を供与する場合であっても、いやしくも供与の当時において公務員である以上は贈賄罪はそこに成立し、公務員が賄賂に関する職務を現に担任することは贈賄罪の要件でないと解するを相当とする。この点に関し原審が転任に因ってその一般的職務に異同を生ずるものではないと説示したのは現在の職務関係に拘泥するきらいがあって措辞適切を欠くものがあるけれども、転任後も公務員たる資格あることによって贈賄罪の成立を認めた点は両者異なるところがないから、原判決は結局正当である。論旨引用の大正一一年(れ)第一〇八一号、同年一〇月二〇日の大審院判例は公務員たる資格を喪失後、前の職務に関して賄賂を収受した事案であり、また大正四年(れ)第三四五号、同年七月一〇日の同院判例は同院その後の屡次の判例(大正六年(れ)第一〇九一号、同年六月二八日判決、大正一〇年(れ)第二一〇六号、同一一年四月一日判決、大正一三年(れ)第二〇六九号、同一四年二月二〇日判決、昭和九年(れ)第一一七四号、同年一二月四日判決、昭和一〇年(れ)第一七六七号、同一一年三月一六日判決)によって変更せられたものと認めるのが相当であって、これまた本件に適切でない。それ故贈賄罪の成立を否定する論旨は理由がない。

弁護人広重慶三郎の上告趣意第二点について。

被告人が井上忠光の職務に関し賄賂を供与したものと認定した第一審判決を是認した原判決の正当であることは、第一審判決挙示の証拠及び記録に徴して明らかである。それ故右の職務に関しないことを前提として原判決の判例違反を主張する論旨は採用できない。

その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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